年金にも長所はある(はず)【その3】
これまで年金制度について、世間で話題になっている問題は何か、そしてその問題についてどのように考えたらよいのかを述べてきました(注:ここでいう年金制度とはいわゆる公的年金制度のことで、私的年金は含みません)。支払額と受取額を比較すると年金額は不公平にみえるが、その一方で社会を安定させる役割を持っているので、一方的に不公平と断じてしまうのはよくないというのが私の意見です。
では年金制度を損得で考えないとして、どのようにこの制度とつき合っていけばよいのでしょうか? 最初から「年金=悪」と考えるのではなく、年金制度をありのままにみると、他にはない長所も見えてきます。今回は、公的年金制度の持つ長所のうち、「一生受け取れる」という点に絞って話を進めることにしましょう。
さて、年金というのはいつまで受け取ることができるのでしょうか? 公的年金の場合は、生きている限りずっと受け取ることができます。このようなタイプの年金を「終身年金」と呼びます。それに対して、生死にかかわらず一定期間(たとえば10年間)年金が受け取れるタイプの年金が、「確定年金」です。では「終身年金」と「確定年金」のどちらが有利なのでしょうか。
「終身年金」は生きている間ずっと年金を受け取れるから、期間が決まっている「確定年金」よりよさそうにみえます。数字で確認してみましょう(本来は緻密に計算する必要がありますが、私は専門家ではないので、ざっくりした計算になっていることをお断りします)。
(例1) 65歳のAさん(男性)は、1000万円の資金を年金で受け取りたいと考えています(この資金は公的年金とは別)。「10年確定年金」で受け取る場合、「終身年金」で受け取る場合、それぞれの年金額はいくらか(運用金利は年1%。年金は1年の始まり時に一括で受け取るものとする)。
実際に計算すると、10年確定年金の年金額は 105.5万円、終身年金の年金額は72.1万円となります(終身年金は65歳の平均余命が15年として計算)。確定年金の合計受取額は、105.5万円×10年=1055万円なので、終身年金で同じ額を受け取るためには、Aさんは15年は生きなければなりません(72.1万円×15年=1081.5万円>1055万円)。つまりAさんが80歳まで生きれば「終身年金」が有利、80歳まで生きられなければ「確定年金」が有利ということです。
数字の上では、このように有利不利がはっきりします。平均余命(Aさんの場合は15年)より長く生きられるかどうかが分岐点です。ただ、自分が何歳まで生きるかは誰にもわからないし、実際にはそれほど単純に割り切れないものです。次の例でそのことを確認してみましょう。
(例2) (例1)に登場したAさんは、10年間の確定年金を選択しました。その後大きな病気をすることなく7年が過ぎ、Aさんは72歳になりました。仕事をしていないので、収入は公的年金と現在受け取っている年金だけです。貯金が他に1000万円ありますが、3年後には確定年金もなくなるので、心配しています。
Aさんは3年後どうしているでしょうか? たぶん3年後より前の時点で、お金を使わないようにするはずです(すでにやっているかも知れません)。貯金を取り崩さなくてはいけなくなると不安だからです。公的年金だけで生活し、貯金には手をつけないような生活になるはずです。これではせっかく資産があっても、使えないまま一生を終えることになりそうですね。
低金利でお金が増えないのであれば、お金を使いたくないいう気持ちはわかります。多くの高齢者がお金を持ったまま使わないのは、減ってしまうことに対する不安があるからなのでしょう。でも、貯金がいくらあっても使えないのは、もったいないと思いませんか。
こんなとき「終身年金」であれば、気分がだいぶ違います。生きている間は同じ金額を受け取ることができるので、その範囲内で生活すればよいからです。100歳まで長生きしても大丈夫です。少しは貯金も残しておかないといけませんが、少しぐらい使っても年金があるので、それほど心配はいらないはずです。
公的年金は「終身年金」なので、その部分に関しては、長生きしたときの心配をする必要はありません。これは大きなメリットです。年金は損だなんていわないで、健康に気をつけて長生きを喜ぶようにしたらどうでしょうか。そのほうが精神的にもよいですし。したがって、公的年金で足りない金額についても、「終身年金」で準備するよう心がけます。貯金としておいておくよりも、一生続く「お金の流れ」にするわけです。かっこよくいうと、「ストックからフローへ」ということですね。ただ、いまの日本は低金利なので、若いときから終身年金にこだわる必要はありません。若いうちは運用リスクをとっておいて、歳をとったら終身年金に変更するというパターンがベストです。その方法については、機会を改めて紹介したいと思います(いますぐ知りたいという人は、拙書『預金、やめた。』を読んでください)。
公的年金にもよいところはあります。それは素直に認めてあげましょう。同じように限界はあります。国の制度だから当然です。社会主義国ではないので、公的年金だけで国民生活すべてをまかなうわけにはいきません。足りないところは自分たちで補うことになりますが、そのときも公的年金の考え方が参考になります。公的年金が終身年金だから、自分も終身年金を確保しようというのは自然な考え方です(注:自助努力の部分は、終身年金以外にも、アパート経営などの選択肢もあります)。
年金制度を批判している時間があったら、ぜひあなたができることに取り組んでください。そのほうが時間の使い方としても、有効だと思いますよ。








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