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2010年5月

2010年5月14日 (金)

年金にも長所はある(はず)【その3】

 これまで年金制度について、世間で話題になっている問題は何か、そしてその問題についてどのように考えたらよいのかを述べてきました(注:ここでいう年金制度とはいわゆる公的年金制度のことで、私的年金は含みません)。支払額と受取額を比較すると年金額は不公平にみえるが、その一方で社会を安定させる役割を持っているので、一方的に不公平と断じてしまうのはよくないというのが私の意見です。

 では年金制度を損得で考えないとして、どのようにこの制度とつき合っていけばよいのでしょうか? 最初から「年金=悪」と考えるのではなく、年金制度をありのままにみると、他にはない長所も見えてきます。今回は、公的年金制度の持つ長所のうち、「一生受け取れる」という点に絞って話を進めることにしましょう。

 さて、年金というのはいつまで受け取ることができるのでしょうか? 公的年金の場合は、生きている限りずっと受け取ることができます。このようなタイプの年金を「終身年金」と呼びます。それに対して、生死にかかわらず一定期間(たとえば10年間)年金が受け取れるタイプの年金が、「確定年金」です。では「終身年金」と「確定年金」のどちらが有利なのでしょうか。
 「終身年金」は生きている間ずっと年金を受け取れるから、期間が決まっている「確定年金」よりよさそうにみえます。数字で確認してみましょう(本来は緻密に計算する必要がありますが、私は専門家ではないので、ざっくりした計算になっていることをお断りします)。

(例1) 65歳のAさん(男性)は、1000万円の資金を年金で受け取りたいと考えています(この資金は公的年金とは別)。「10年確定年金」で受け取る場合、「終身年金」で受け取る場合、それぞれの年金額はいくらか(運用金利は年1%。年金は1年の始まり時に一括で受け取るものとする)。

 実際に計算すると、10年確定年金の年金額は 105.5万円、終身年金の年金額は72.1万円となります(終身年金は65歳の平均余命が15年として計算)。確定年金の合計受取額は、105.5万円×10年=1055万円なので、終身年金で同じ額を受け取るためには、Aさんは15年は生きなければなりません(72.1万円×15年=1081.5万円>1055万円)。つまりAさんが80歳まで生きれば「終身年金」が有利、80歳まで生きられなければ「確定年金」が有利ということです。

 数字の上では、このように有利不利がはっきりします。平均余命(Aさんの場合は15年)より長く生きられるかどうかが分岐点です。ただ、自分が何歳まで生きるかは誰にもわからないし、実際にはそれほど単純に割り切れないものです。次の例でそのことを確認してみましょう。

(例2) (例1)に登場したAさんは、10年間の確定年金を選択しました。その後大きな病気をすることなく7年が過ぎ、Aさんは72歳になりました。仕事をしていないので、収入は公的年金と現在受け取っている年金だけです。貯金が他に1000万円ありますが、3年後には確定年金もなくなるので、心配しています。

 Aさんは3年後どうしているでしょうか? たぶん3年後より前の時点で、お金を使わないようにするはずです(すでにやっているかも知れません)。貯金を取り崩さなくてはいけなくなると不安だからです。公的年金だけで生活し、貯金には手をつけないような生活になるはずです。これではせっかく資産があっても、使えないまま一生を終えることになりそうですね。

 低金利でお金が増えないのであれば、お金を使いたくないいう気持ちはわかります。多くの高齢者がお金を持ったまま使わないのは、減ってしまうことに対する不安があるからなのでしょう。でも、貯金がいくらあっても使えないのは、もったいないと思いませんか。

 こんなとき「終身年金」であれば、気分がだいぶ違います。生きている間は同じ金額を受け取ることができるので、その範囲内で生活すればよいからです。100歳まで長生きしても大丈夫です。少しは貯金も残しておかないといけませんが、少しぐらい使っても年金があるので、それほど心配はいらないはずです。

 公的年金は「終身年金」なので、その部分に関しては、長生きしたときの心配をする必要はありません。これは大きなメリットです。年金は損だなんていわないで、健康に気をつけて長生きを喜ぶようにしたらどうでしょうか。そのほうが精神的にもよいですし。したがって、公的年金で足りない金額についても、「終身年金」で準備するよう心がけます。貯金としておいておくよりも、一生続く「お金の流れ」にするわけです。かっこよくいうと、「ストックからフローへ」ということですね。ただ、いまの日本は低金利なので、若いときから終身年金にこだわる必要はありません。若いうちは運用リスクをとっておいて、歳をとったら終身年金に変更するというパターンがベストです。その方法については、機会を改めて紹介したいと思います(いますぐ知りたいという人は、拙書『預金、やめた。』を読んでください)。

 公的年金にもよいところはあります。それは素直に認めてあげましょう。同じように限界はあります。国の制度だから当然です。社会主義国ではないので、公的年金だけで国民生活すべてをまかなうわけにはいきません。足りないところは自分たちで補うことになりますが、そのときも公的年金の考え方が参考になります。公的年金が終身年金だから、自分も終身年金を確保しようというのは自然な考え方です(注:自助努力の部分は、終身年金以外にも、アパート経営などの選択肢もあります)。

 年金制度を批判している時間があったら、ぜひあなたができることに取り組んでください。そのほうが時間の使い方としても、有効だと思いますよ。


 

 



 
 
 
 

2010年5月10日 (月)

年金にも長所はある(はず)【その2】

 年金制度について述べるとき必ず話題になるのが、「払う額ともらう額の比較」だ。年齢が若いほど、支払う保険料のほうが受け取る年金額より多くなって、不公平だといわれる。現在20歳の男性が60歳まで、ずっと年収500万円だとした場合、84歳まで長生きしないと、支払保険料<年金額にならない(金利はまったく考慮しない)。男性の平均寿命は79歳だから、ほとんどの人は 支払保険料>年金額 となるはずだ。その一方で、いま年金を受け取っている人たちは、たいした保険料を支払っていない。

 この点だけを見ると、誰だって年金制度は不公平だと思う。高齢者の人たちでも、「これからの若い人は大変だ」と考えている人たちはたくさんいる。たしかに公的年金という制度だけをとってみると不公平な気がする。けれども違う視点でみると、必ずしもそうとはいえない。ひとつ例を挙げてみよう。それは公的年金制度があることにより、中年世代は親の経済的な面倒をみなくてすんでいる点だ。年金制度がなければ、中年世代は保険料の負担はなくなるが、親世代の面倒をある程度はみないといけなくなる。両親2人で付き20万円の分の面倒をみるとして、子どもが2人だったら、中年世代の家庭で月10万円の負担をしなくてはならなくなる。これは結構大変だ。親の世話が終わったあとは、自分たちで老後の備えをするか、子どもたちに養ってもらう必要がある。

 親がいない人たちもいるわけで、いろいろなケースがあることは承知しているが、公的年金制度をもう広い目で眺めてみると、必ずしも不公平な制度とはいえない。全体的にみれば、若い世代でも公的年金の恩恵を受けていることは認めたほうがよい。

 年金制度では、支払額と受取額がはっきりとわかるので、両者を比較する議論になりがちである。ただ確認しておくべきことは、年金の最大の目的は社会全体を安定させることであり、ひとりひとりの帳尻を合わせることは優先順位としては低くなる。極端に支払だけが多くなるというようなことでなければ、支払額>受取額 になっても特に問題はないのではなかろうか(計算のいかさまはやめて欲しいが)。税金の見返りが直接どのくらいの恩恵として返ってきているのかはわからないが、税金をなくして警察や消防がなくなるというのは困るはず。同様に公的年金制度をやめて、社会が不安定になるというは誰も望まないと思う。

 「年金は損だ」というような物言いは、もうやめたほうがいいと思う。年金制度を批判することは自由でも、すぐに年金制度をなくしてしまうことはできない(高齢者の数も増え続けている)。日本全体というマクロの問題が解決できなくても、個人の問題が解決すればそれでよいと割り切ったほうがよい。これから年金を受け取る世代は、いまの高齢者がもらっている以上の年金額を受け取ることはない。かといって、年金額がゼロになることもない(たぶん)。その現実のなかで、個人レベルで何ができるのか、それを一生懸命考えたほうが、時間の使い方をしてはよっぽど賢いと思うのだが。
 
 マスコミにあおられて、「年金=損」を合唱していると、若い世代は年金に対する不信感を増してしまう。そうなると今の中年世代が年金を受け取るとき、いまの若い世代は「年寄りはもう知らない」という可能性もある。中年世代は「年金=損」なんて言っちゃいけませんよ。「年金はありがたいから、大切にしようね」とちゃんと教えないと。自分で自分の首をしめちゃいけないでしょ。

 

 

2010年5月 7日 (金)

年金制度にも長所はある(はず) 【その1】

 今年の夏には参議院選挙がある。選挙では「年金」が必ず議題になる(注:ここでいう年金は国民年金や厚生年金などの公的年金制度のこと)。しかし選挙後に何が変わったかといわれると、「う~ん」とうなってしまう。何も変わらないまま、選挙前になるとまたマスコミは年金についてネガティブな報道をする。国民の側にも「年金制度=悪」という思考回路ができてしまったようだ(いま年金を受け取っている人は除く)。

 私個人は日本年金機構(旧社会保険庁)に何の義理もないので、年金制度を擁護する必要はまったくない。でも、このような一方的な議論には疑問を感じる。こういうときはオタク精神を発揮するに限る。悪者の年金制度にもよいところはないか探してみようではないか。どんな人間でも何か長所があるように、年金制度にも長所はあるはず。最初から悪いものだと考えずに、素直な目で年金制度を見つめてみれば、短所とともに長所も発見できるだろう。批判からは何も生まれない。まずはじっくり現状を見つめてみることにしよう。

 考える順番として、①→②→③ としてみた。

① 年金が問題だといわれているが、具体的な問題とはどのようなことか?
② ①で問題とされることは、私たちの生活とどのような関係があるのか?
③ 私たちが行動するにあたって、年金をどのように活用すればよいのか?

 今回は①について考える。いわゆる「年金問題」は、次の4つにまとめることができる。

(a) 年金の掛け金が無駄遣いされている問題(公的資金流用問題)
(b) 年金制度が複雑なため、将来受け取る金額がよくわからないという問題
(c) 年金記録が欠けているため、年金額が少なくなってしまう問題(年金記録問題)
(d) 若い世代にとっては、支払額>受取額になってしまう問題

 結論からいうと、(a)(b)(c)の3つの問題は、すでに解決されているか、もしくは個別問題ということになる。多くの人にとって広く重要な問題は(d)である。
 
 (a)に関していうと、公的資金流用はたしかに大きな問題だ。細かく挙げるときりがないので、興味がある方はこちらを参考にしてほしい。→ http://bit.ly/cmvBYL もちろん不正流用は許せないことである。ただ、もし不正がなかったとしても、年金の財政問題が解決するわけではない。年金制度の本当の問題は、収支のバランスにあるからだ。この問題をきっかけに、マスコミは国民の年金に対する信感を植え付けることに成功した。その反面で、より大きな問題に気づきにくくなったということも事実である。実際、江角マキコが国民年金のポスターに起用されたのに、保険料が不払いだったなんてことでもめている間に、年金の重要法案が議論もなく通過してしまったこともある(2004年)。

 (b)については、平成21年度から「ねんきん定期便」の制度ができたことにより、ほぼ問題は解決されている。従来は59歳になっても受け取る年金額がわからないなんて人が多かった。笑い話ではない。いまから5年前、私が年金ガイドブックなるものを配布していた頃、いちばん問い合わせが多かったのは、50台後半の人たちだった。いまは「ねんきん定期便」により、将来の年金額もある程度わかるので、このようなことはない。年金制度の改革はなかなか進まないが、「ねんきん定期便」が導入されたことはよかったと評価する(年金記録問題を隠そうとしたのではとか、異常に経費がかかったのではとかいう点は、しっくりこないけれど)。
 
 (c)の年金記録問題もマスコミで大きく取り上げられた。たしかに巻き込まれた人にとっては死活問題だ。コンピュータ化されていないときの記録だから、確認しようとしてもほとんど無理だと思う。これは時間がかかっても個別に対応するということしかない。ただこれも(a)の場合と同じく、年金制度の根本的な問題というわけではない。お役人の怠慢や不正にはあきれるばかりだが、年金制度がまたまたマスコミの格好の餌食になってしまった感がある。

 さて残るは(d)の問題だ。現在年金を受け取っている高齢者世代は、掛け金の何倍もの年金を受け取ることができるのに対して、これから年金を受け取る世代(特に中年以降)は、支払額が受取額を上回るケースが多くなる。このことから「年金は損だ」というイメージが生まれ、国民年金保険料を支払わない人が多くなっている(注:厚生年金は給与天引きなので、支払わないわけにはいかない)。そして、このことが年金制度の崩壊につながるのではないかと、マスコミはまた不安をあおる。

 国民年金保険料を支払わない人が多くなったからといって、年金財政に大きな影響はない(参考文献:細野真宏『「未納が増えると年金が破綻する」って誰が言った?』)。それでも、実際に支払額のほうが受取額を上回ってしまう世代がいることは事実であり、時間の経過とともに多数派となる。厚生労働省や旧社会保険庁は、厚生年金保険料のうち自己負担分の部分(負担すべき保険料の2分の1)だけを支払額として受取額と比較し、受け取り学のほうが多くなりますよという姑息な説明をするが、誰もそんな説明にはだまされない。

 この不公平感がある限り、年金制度に対する不信感は払拭されない。だから、きちんと向き合う必要がある。この問題をどのように取り扱えばよいのだろうか、それは【その2】で考えてみることにしたい。

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