猿マネでうまくいくわけがない
少し前に、駒沢大学がデリバティブ取引で154億円の損失を出したと報道された。おそらく外資系の金融機関から「アメリカの大学は資金運用するのが常識だ」と言われたのを鵜呑みにしてしまったのだろう。大学教授といえ、運用に関しては素人と同じレベルなのだから、まんまとカモにされたというところだろう。お気の毒に(同情はしないけど)。
では、本家本元のアメリカの大学はどうなっているのだろう。ハーバード大学では2008年6月末から10月末までの4ヶ月で、大学の運用基金が80億ドル(7430億円)減少したとのこと(12月8日産経新聞)。6月末の運用基金が369億ドルだから、4ヶ月で資産の約5分の1を失ったことになる。さすが、全米最大の基金。スケールが違う。
ハーバードやエール、スタンフォードといった大学は、日本のように金融機関のいいなりで運用しているわけではなく、有能なファンドマネジャーを採用し、本格的な運用体制を整えている。それでもこれだけの損失が避けられなかった。とはいっても、ハーバードの場合は資産が減ったといっても、日本円にして2.7兆円もの資金ある。大学の屋台骨を揺るがすということにはならないだろう。
このニュースを読んで、ある本のことを思い出した。上地明徳著『ダマされたくない人の資産運用術』(青春出版社)という本だ(2006年12月出版)。その中で、上地氏はハーバード大学やエール大学の運用手法を絶賛している。その手法を個人でも取り入れようというのが、本書の主張である。73ページには、エール大学の例として、以下のポートフォリオが紹介されている。
「米国株式15.0%」「外国株式10.0%」「債券10.0%」「不動産17.5%」「ベンチャー投資25.0%」「絶対収益追求型(いわゆるヘッジファンド)22.5%」
このポートフォリオを見て、「おやっ?」と思わないだろうか。オーソドックスな上場株式や債券の割合よりも、不動産やベンチャー投資、ヘッジファンドの割合が高い。分散投資というかたちをとっているが、ハイリスク・ハイリターンのポートフォリオといえる。
上地氏は、エール大学のポートフォリオをそのまま個人にあてはめようと主張しているわけではない(もしあてはめようとしても、ベンチャー投資やヘッジファンドに投資するのは無理だからという事情もある)。ただ一貫して、エール大学の投資哲学を学ぼうと主張しているので、上のポートフォリオを理想としていると受け止めてよいだろう。たしかに運用実績からみると1980年から2000年までの21年間通算で、平均リターン年率17.4%という成績は立派といえる。
しかし、運用実績という結果だけを根拠にして、個人にハイリスク投資をすすめるような内容には、当時から疑問を感じていた。エール大学は数兆円という基金を持っており、高いリスクを取れる環境にあるからこそ、ハイリスク投資を選択している。それと同じ手法をリスクの取れない(または取ったことのない)個人にいきなり適用するのは、かなり乱暴だ。
こんな主張をすると、「金融危機後の運用成績を見て、批判するのはフェアでない」と指摘を受けるかも知れない。しかし、私は金融危機が発生する以前から、「個人はアメリカの大学の運用方法を猿マネをしてはいけない」と強調してきた。証拠として、2007年12月に私がクライアント向けに送ったレターの一部を引用する。
(以下、引用)
要するに「猿マネじゃうまくいかない」ということです。プロやお金持ちの方法から学ぶ必要はありますが、まずは自分でできることから始めたほうがよいのです。野球をはじめたばかりの少年が、イチローの技術をマネしても役に立たないということは、すぐにわかりますよね(笑)。
注意しなければいけない例をひとつ挙げておきましょう。ハーバード大学やエール大学といったアメリカの有名大学は自分たちの基金を、年10%以上の高い利回りで運用しています。そこで、これらの大学が用いているのと同じ組み合わせで運用してみることを推薦している人たちがいます(上地明徳著『ダマされたくない人の資産運用術』青春出版社)。著者に悪意はないのでしょうが、これを鵜呑みにしてはいけません。たとえば、ハーバード大学の基金は4兆円にもなります。日本では想像もつかない金額です。これだけの資産があるからこそ、リスクの大きな運用ができます。少しぐらい運用成績が悪くてもビクともしない状況があるのです。
大きなリスクを引き受けるためには、それに見合った資産が必要です。十分な資産がないのに、リスクの大きな投資をするのはギャンブルにすぎません。いま十分な資産がないのであれば、最初のうちは資産を確実に増やしていくことに全力をあげるべきなのです。ハーバード大学の方法をマネするのは、それからでも遅くはないでしょう。
(引用終わり)
猿マネをすすめて、リスクを取れない人にリスクを取らせた人に責任はないのでしょうか(私はあると思いますよ)。今回は「100年に一度の金融危機」だそうだから、それを言い訳に使うのでしょうか。ずるいよ。私のように現場でお客さんと向かい合っている人は、そんな風に逃げられないのだから。お客さんがいなければ、何とでも言えるんだよね。ホントに。
| 固定リンク
「マネー」カテゴリの記事
- タダほど高いものはない(投資信託・ETF選び・再考)(2009.07.28)
- 『預金、やめた。』 著者による解説 〔分散投資を広く考えよう〕(2009.07.24)
- 『預金、やめた。』って、山口さんの本だったんですね。(2009.07.23)
- 『預金、やめた』で伝えたかったこと(2009.07.16)
- リバランスは第三の選択肢(2009.03.12)




コメント