確定拠出年金はなぜ普及しない?
素晴らしい内容の本がベストセラーになるとは限らない。むしろ、素晴らしい本であっても、ベストセラーにならないほうが普通だろう。ベストセラーになる本がすべて素晴らしい本だとは言えないが、売れるためには、内容にプラスアルファがないといけないのは間違いない。昨年、本を2冊出してみて、そのことをつくづく感じた。
内容と人気が一致しないというのは、本に限った話ではない。映画や音楽というエンターテイメントの世界にはよくある話だろう。もちろん金融の世界でも同じようなことがある。その典型例が「確定拠出年金(個人型)」である。メリットの大きなしくみであるにもかかわらず、広く利用されているとはいえない。
「確定拠出年金(個人型)」は、20歳~60歳までの自営業者の人や、企業年金のない会社に勤務しているサラリーマンなどが加入できる(主婦や公務員は対象外)。企業年金のある会社に勤務している人は加入できないので、加入できる人が限られていることは事実だ。それでも加入者8万人というのは少なすぎる。数が2桁ぐらい違っているのではないかという気がする。
「確定拠出年金(個人型)」は、月々掛け金を積み立てて、60歳以降年金として受け取るためのしくみだ。原則として途中で解約することができない代わりに、税制上の特典が用意されている。掛け金は全額所得控除となり、運用期間中は利子や分配金には課税されない。また年金で受け取るときは公的年金控除が適用され、一時金で受け取るときは退職所得控除が適用される。税金面では非常に有利な方法だ。
もちろんコストはかかる。コストは金融機関ごとに異なるが、イー・トレード証券の場合は、50万円以上の残高があれば、毎月の口座管理手数料は無料になる。他には国民年金基金連合会などに月額163円の手数料を支払う必要がある(掛け金を支払っている期間中)。
所得税や住民税を支払っている人であれば、最低税率でも15%が適用される。たとえば月額1万円ずつ「確定拠出年金(個人型)」で積み立てていると、年間12万円が所得控除されるので、税金を18,000円節約できる(120,000円×15%=18,000円)。上の例で、イー・トレード証券に残高が50万円以上あれば、年間の手数料は1,956円なので、コストよりも税金の節約分のほうが大きい。税率が高い人であれば、メリットはより大きなものになる。
ただし注意しなければならないこともある。「確定拠出年金(個人型)」では、金融機関が準備する運用商品(預金や投資信託など)から、加入者が自分の責任で商品を選択して運用する。投資信託のような元本を変動する商品を選んだ場合は、元本割れする可能性もある。また信託報酬という運用手数料を負担しなければならない。
とはいっても、「確定拠出年金(個人型)」に加入できる人が、この制度を使わずに、金融機関で投資信託を購入しているというのはいただけない。短期売買を繰り返して儲けたいという人以外は、まず「確定拠出年金(個人型)」に加入して、それから金融機関で投資信託を購入するというのが正しい順番だと思う。
もし元本割れするのは絶対にいやだというのであれば、預金や積立年金という元本確保型の商品で運用してもよい。掛け金は所得控除されるので、その分税金を節約できる。上の例では、節約できる税金が毎年18,000円、必要なコストが1,956円なので、差し引き約16,000円の利益と考えてもよい。年間の掛け金が120,000円なので、単純計算で年13%程度の利回りとなる(16,000円÷120,000円=13.3%)。利息がゼロだとしても年13%の利益が得られる方法が他にあるだろうか?
「確定拠出年金(個人型)」は、60歳まで現金にできないというデメリットはあるが、お金を増やすという意味でのメリットは大きい。なぜこの制度が普及しないのだろうか?
理由は単純明快だ。「確定拠出年金(個人型)」は、金融機関にとってうまみが少ないので、力をいれないから普及していない。それだけのことだ。
実は、多くの金融機関で「確定拠出年金(個人型)」を取り扱っている。しかし、銀行や証券会社の窓口では、客が申し出ない限り「確定拠出年金(個人型)」の説明はしないはずだ。「確定拠出年金(個人型)」を熱心に販売したとしても、金融機関に入ってくるのは少しばかりの口座管理手数料と、投資信託の信託報酬ぐらいだ。手間をかけても、なけなしの手数料しか得られないのであれば、もっと大きな手数料の取れる変額年金や投資信託を売ったほうがよっぽどよいと考えるのが自然だろう。
この現状は簡単には変わらない。金融機関から何か情報が得られると思ったら、大間違いだ。だから、「確定拠出年金(個人型)」に加入できる人は、ぜひ加入を検討してみてほしい。拙書『会社勤めでもできる余裕の年金づくり』(明日香出版社)の151ページのフローチャートを使えば、加入可能かどうかすぐにわかる。よい制度はいますぐ利用するに限る。
それにしても、この「宝探し」のような現状は何とかならないのだろうか。本当に役に立つ商品やしくみが広く使われるようになって欲しいものだ。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)




最近のコメント