タダほど高いものはない(投資信託・ETF選び・再考)
7月27日付けの日本経済新聞にこんな記事を見かけました。
ETF市場、個人が存在感 東・阪証取で首位も
国内の上場投資
信託(ETF)市場で個人投資家の存在感が増している。2009年1~6月の個人の売買金額シェア(委託売買ベース)は外国人を上回る45%を確保。すで
に個人が中核を占める大阪証券取引所に続き、東京証券取引所でもシェアが外国人を6年ぶりに上回る可能性が出ている。上場銘柄数がこの6月末までの1年間
に8割近く増加。商品性の多様化も進み、銘柄選別の巧拙が問われる個別株への投資などより手掛けやすい点が注目されている。
ETF市場
での個人の売買シェアは03年に43.6%と外国人の25.8%を上回っていたが、05年には23.2%まで急低下した。世界的な過剰流動性を背景にした
外国人による大口取引が増えたことや、個人がネットなどを通じた個別銘柄の売買に傾いたためだ。
ETF人気の理由として、コストの安さがあげられます。国内株式のETFであれば、信託報酬はおおむね年0.1~0.2%といったところなので、一般的なアクティブファンドとは比べものにならないくらい低い水準です(一般的な国内株式のアクティブファンドであれば、信託報酬は年1.5%程度)。
たしかにコストの安さは魅力ですね。しかも少額の資金から分散投資ができます。個人投資家に人気があるのもうなづけます。高い信託報酬を負担したからといって、運用成績がよくなるわけではないので、コストが安いというのは重要なポイントです。その点は私も十分に理解しているつもりです。
ただ、「ETFのコストが安い=ETFが投資に最適な商品」という考え方には賛成できません。投資で成果をあげるために低いコストは重要だとは思いますが、それがすべてではないからです。コストの低い商品を買えば、資産運用はうまくいくというのは、単純な考え方です。もしそうであれば、資金を豊富に持ち、株式や債券を低いコストで売買できる機関投資家の資産運用はうまくいくということになります。しかし機関投資家であっても、必ずしも運用がうまくいくわけではありません。コストは資産運用で成功するための十分条件ではないのです。
コストが十分条件でないことを示す例として、作家の日垣隆さんの文章から引用してみることにしましょう(『裁判官に気をつけろ!』文春文庫p222~224)。なお、日垣さんの文章は「賭博罪」について考察していますが、ここではギャンブルのコストに注目して、引用している点をお断りしておきます。
パチンコや競馬や競艇が賭博であることに誰も異論はないと思いますが、必ず主催者が儲かるようにできているのは、寺銭または手数料をとっているからです。
(中略)
これらとは逆に、私の好きなブラックジャックは、いかなる国の合法カジノにおいてもプレーヤー側に有利に設定されています。寺銭や手数料に相当するものがありません。むしろ「ブラックジャック(エースと、10か絵札)が出たときの配当、および「16以下の場合ディーラーは必ずもう1枚引かなければならない」というルールは、明らかにディーラー側に不利です。
あなたはこのことを知っていましたか。カジノでは寺銭はとられません。株式投資に置き換えると、売買を何度してもまったく手数料は必要ないのと同じです。そこで、当然のことながら、「なぜカジノは儲かるの?」という疑問が出てきます。続きを読んでみましょう。
それでもなぜカジノ側が利益を出せるかといえば、プレーヤーが熱くなってしまうからです。
簡単に言えば、こういうことです。
パチンコでもバカラでもポーカーでも競馬でもいいのですが、まず1万円を出費して負け、さらに1万円、また1万円を出し、合計4万円をスッたとします。その後ようやく運が向いてきて、5枚目の1万円が5倍までになったとしましょう。ギャンブルで5倍とは、なかなかです。しかし彼(または彼女)は往々にして、ここで止めることができません。
なぜなら、トータルで彼(または彼女)は1円も儲けていないからです。5倍になる確率は相当に低いわけですが、5倍になったのに気を良くして、さらに儲けを大きくしようとして負けが込み始め、ついには手元に2万円(相当)しか残っていない状態になりました。勝ち始めたときからすれば2倍なのですが、本日の最初から計算すると、5万円の出費で2万円の残ということになります。だから、「せめて5万円にまで戻してから帰ろう」と彼(または彼女)は決意します。
これは確率から見て、とても不合理な発想です。熱くなるということは、確率論の発想ができなくなる状態を指しています。こうして寺銭のないブラックジャックですら、ディーラー側が総じて負けないわけです。
ギャンブルは1日限りの勝負が普通ですが、株式投資の場合、デイトレーダーでもない限り、1日で投資を終えることはありません。その点で、投資とギャンブルは必ずしも同じではありません。ただ、基本的には同じ構造をしていると考えてよいでしょう。ブラックジャックはコストゼロ(厳密にはややマイナスのコスト、つまりプレイヤーに有利)にも関わらず、おおむねプレイヤーが損をするしくみになっています。この考え方は、株式などの投資市場にもあてはまります。人間の性質は、対象がブラックジャックであれ、株式投資であれ変わらないからです。きちんと準備をしておかなければ、ほとんどの場合、損をすることになるのはどちらにも共通しています。たとえ取引にかかるコストがゼロであったとしてもです。ETFがコストが安い商品でも、成功を保証してくれるわけではありません。個人投資家が相手にするのは、プロですから。
ギャンブルで稼ぐためには、「ほどほど」を知ることです。熱くならないことが大切です。投資でも同じです。では、熱くならないようにするためには、どうすればよいのでしょうか。精神論では何ともなりません。そこで「しくみ」を作って対応しようというのが私の考えです。頭が熱くなるのを冷やしてくれる「しくみ」であれば、使用料を払う価値があります。その「しくみ」が変額保険です。変額保険は、保険のしくみの中で、ETFなどのコストの安い金融商品を活用していくので、熱くなる可能性が低くなっています。
目先のコストだけに注目していると、カジノと同じように主催者の思う壺になります。手数料の安さだけに注目するのではなく、人間の感情という本質的なところに眼を向けてみると、違った答えが見えてくるはずです。多くの人にそのことに気づいてもらいたいなと思います詳しいことを知りたい人は、『預金、やめた。』(ダイヤモンド社)を読んでくださいね。
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