プライベートバンクが日本で普及しない理由
欧州系の銀行で、プライベートバンクのサービスを日本で展開した経験のあるSさんとお話した。その銀行では60億円かけて日本市場に参入したものの、思ったようなニーズがなく、ほどなく撤退してしまったとのことだった。
「日本にプライベートバンクのニーズがないのはなぜですか?」とたずねると、Sさんはその理由をこう説明してくれた。
「ヨーロッパのプライベートバンクが発達したのは、ヨーロッパに戦争が多かったからです。大金持ちは自分たちの資産を守るために、国に頼らない方法を探していました。そこで、19世紀後半にスイスが小国の利を活かして、プライベートバンクのサービスが発達しました。このサービスが受け入れられる前提として、ヨーロッパにおける戦争の歴史があったのです。」
「日本の場合、外国と大きな戦争を経験したことはあまりありません。第二次世界大戦を除けば、元寇ぐらいのものです。第二次世界大戦は日本にとって大きなダメージを残しましたが、経験としては一回だけです。そして、そのときに日本の社会がリセットされたことが、プライベートバンクが日本で受け入れられない原因になっています。」
「ヨーロッパの金持ちは何世代にもわたって、自分たちの資産を引き継いできました。しかし日本は戦争によって大金持ちがいなくなってしまいました。戦後に大金持ちが出てきましたが、戦後65年では、せいぜい二代目、三代目というところです。これでは資産を引き継ぐという考え方は持てないのです。」
Sさんの話を聞くまでは、日本人の金融リテラシーが低いのが、プライベートバンクが普及しない原因だと考えていた。けれども、Sさんの話を聞いて、プライベートバンク普及の裏側に、戦争の歴史があることがわかった。プライベートバンクが日本で普及しなかったということは、大きな戦争を経験しなかったということであり、日本というは幸せな国だったことに気づかされた。
Sさんの話は続く。
「国が破綻する原因はふたつあります。ひとつは戦争、もうひとつはお金です。」
日本は戦争によって国が破綻するという経験をしている。しかしその後急速な経済発展をとげたため、国の破綻という貴重な経験を引き継ぐ人が少ない。また、お金で破綻した経験はない。過去の経験をもとに、これからの未来を考えてはいけないようだ。ギリシャやスペインが直面しているような財政危機と、日本がまったく無縁だとは言い切れない。
Sさんの説明を聞いて、プライベートバンクに関する、縦(歴史)と横(海外)の関係がよくわかった。日本で生活していると、国は空気のように思えるけど、それは大きな勘違い。国という制度自体も人間がつくったものである以上、不変のものではない。日本という国が破綻してしまわないように一国民としてがんばるのが筋だが、国が頼りにならないときに具体的にどうするかをいまから考えておいても損はない。
民主党の無駄遣い政策への懸念から、「資産は海外へ」の見出しで、外貨預金や外国資産の投資信託を買おうと主張する記事も見かける(少し前の週刊朝日など)。でも、少し頭を使えばわかるけど、ドルでもユーロでも日本にある資産は、国が破綻したときには封鎖されるはず。本気で資産防衛をはかるなら、海外に持っていかないと。こういうことをそろそろ真剣に考えなければならなくなってきた。寂しいけど、だからといって国を全面的に信じるわけにもいかない。しばらくは、どんな状況にでも対応できるようにしておいたほうが賢いようだ。
「未知のことに驚かされるより、むしろこちらから積極的に驚いたほうがよい」 という趣旨のことを、内田樹さんは語っている(プレジデント2010年7月19日号)。至言だと思う。国債デフォルトにびくびくして、悪いことを考えないようにするより、むしろ最悪の状況をシミュレーションしておこう。たぶん現実はそれよりもだいぶよいはずなのだから。








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